新進気鋭のアニメクリエイター集団つりがね荘が語 るアニメの魅力

アニメは日本の文化といえるほどに浸透し、誰しもがアニメというものを楽しんだことがあると思います。しかし、アニメ制作の現場というものは多くの人にとって縁遠いものであると感じます。そんなアニメ制作に学生のうちから情熱を傾ける一つの団体があります。その武蔵野美術大学に所属するその団体は、部室ではなくわざわざ大学の近くに部屋を借りてそこでアニメ制作に取り組むほどの熱意をもって動いているのです。

今回は自主アニメ制作を行う武蔵野美術大学つりがね荘さんにお話を伺いました。

(左から岡田さん、平澤さん、浅沼さん)

「美術大学でアニメは教えてもらえないってどういうことだ(岡田)」

皆さんはなぜ美術大学に入学されたのですか?

浅沼:私は『カードキャプターさくら』を皮切りにアニメを日常的に見てきました。そうしていくうちに高校時代には漠然とアニメ業界に行きたいという思いが生まれていました。そこで美大を目指して、美大予備校に入り受験勉強を始めました。初めは映像学科志望だったのですが、分野をただアニメ制作一本に絞らず、様々な分野を学びたいと思いました。それでデザイン情報学科に入ってやりたいことを見つけようと思ったんです。

平澤:私は、もともとは絵を描く部活に入っていたのですが、それが好きで美術大学への進学を決めました。映像学科を選んだ理由は、映画を見るのが好きで映像学科が面白そうだと感じたのと、予備校の映像の授業が面白かったからです。目の前にある面白いことをたどっていったらここにたどり着きました。

岡田:私はとにかくアニメが好きで、「絵を上手に描けるようになりたい」という思いがありました。そこから漠然とアニメーターになりたいと思うようになったんです。そこで専門学校に行くか美術大学に行くか悩んでいたときに、アニメのお仕事をされている人とお話する機会がありました。その方から「今の時代は専門学校に行くよりも美術大学に行った人の方がアニメの仕事がしやすい」という話を聞いて、美術大学を目指すことにしました。

―学校でもアニメ制作のための知識を学べたり、課題があったりすると思うのですが、何故つりがね荘をわざわざ立ち上げたのですか?

岡田:実のところ、武蔵野美術大学はアニメーションができる大学ではあるんですが、専門学校ではないのでアニメの仕事に必要な技術を教えてもらえるわ けではないんです。

学校でもアニメ制作のための知識を学べたり、課題があったりすると思うのですが、何故つりがね荘をわざわざ立ち上げたのですか?

岡田:実のところ、武蔵野美術大学はアニメーションができる大学ではあるんですが、教えてはもらえないんです。

美大なのにアニメを教えてもらえないんですか?

岡田:美術大学でアニメは教えてもらえないってどういうことなんだと思いますよね(笑) 武蔵野美術大学は学生の表現の自由さを尊重していることもあり、 商業作品の制作に力をいれている訳ではないので、必ずしもそういった制作技 術を学べる訳ではないんですよね。でも私が作りたかったのはテレビでよく目 にするような商業的な作品だったので、同じ想いを持っている人たちを集めて1つの大きなアニメーション作品を作れたらいいんじゃないか、と思い立ったのが立ち上げのきっかけです。そもそも私たちが武蔵野美術大学を選んだのも、ブラウン管という武蔵野美術大学の自主アニメーション制作団体の作品を見たことが大きな理由の一つなんです。他の大学を見てもこのレベルのものを作っているところがないと断言できるほどに作品のレベルが高かったんです。こんな作品を私たちも作りたいという想いが漠然とあり、その団体を見習った部分があります。ちなみに、そのブラウン管さんでアニメ制作をされていた方々は現在、多方面で活躍されています。

立ち上げ当初は何名で活動していたんですか?

岡田:最初は私ひとりでした。

平澤:岡田さんが声をかけていって、徐々にメンバーが増えていきました。

友達に声をかけていく感覚で増えていったんですか?

岡田:そうですね。アニメに興味があって「この子なら大丈夫だな」という人に片っ端から声をかけていきました。ここの3人(岡田、浅沼、平澤)は予備校が一緒でしたし、ちゃんと出来る子だとわかっていたので声をかけました。

―サークル活動のためにわざわざ部屋を借りるのはすごいと思うのですが、大学内だと制作する場所が取れなかったということなのでしょうか?

岡田:はい、やはり、共同制作をするとなるとそれを共有できる場所がないと大変になりますから。1つのカットを複数人で扱うので、同じ場所で作業できた方がいいですね。場所は大学に近い方が作業しやすいので、大学目の前の立地を借りることにしました。

―それで今に至るんですね。現在何名つりがね荘に所属しているんですか?

岡田:10人くらいです。いろんな学科の子がいるので情報交換もできます。自分の学科内だけで生活していると、視野がそこ止まりになってしまいがちですが、こういう共同作業の場で色々話をしていると別の視点が入ってくるのでいい刺激になります。

「つりがね荘はサークルではないんです(岡田)」

―新歓活動をされていたりするんですか?

岡田:新歓活動はしていません。ここは、サークルではないんです。私が個人的に人を集めて作ったものなので、団体そのものを受け継いでいくことは考えていません。

平澤:ここで完結しているんです。

―つりがね荘はサークルというよりは岡田さんを中心とした人間のネットワークなんですね。

岡田:そうなります。ですが、制作に関わる全てのことを在籍している10人で完成させることは難しいので、大学内に告知を出して一時的に人を集めたりはしています。実際に学内にポスターを貼ってお手伝いさんを集めていまし た。お手伝いしてくれた人たちには、お礼としてこちらから基本的なアニメの作り方を教えていました。

―ではつりがね荘の中心メンバーが卒業されたらこの団体は終わり、ということになるんですか?

浅沼:社会人になっても活動を続ける団体もありますし、残すかどうかは私たちの就職活動次第になると思います。

岡田:恐らくなくなることはないですね。

―Media100の活動と似ている面がありますね。制作を行う以上発信の場が重要になってきますが、ナイトアニメバー以外で、他にも発表する機会はありますか?

岡田:武蔵野美術大学の芸術祭がそれにあたります。芸術祭は最も集客率が高いですし、展示品の中から1番を決める展示大賞というものがあります。私たちはそこで賞を取ることを目指してアニメを制作しました。昨年制作した『星の流れる街で』は特別審査員賞を受賞しました。

芸術祭のような大きなお祭りに出展するのってすごく大変だと思います

浅沼:大変です。アニメーション制作と並行して、上映会に必要な準備も行いました。映像作品は上映場所でしか見てもらえないので、どうしたら人を呼び込めるかということをすごく考えましたね。

岡田:なかなかうまいこといきませんね。私たちは事前に学校内にお手伝い募集のポスターを掲示していたので、多少の知名度はあったんです。その効果あってか、キャンパスの端の方で上映していたにも関わらず行列ができるほど人が来てくれました。

「アニメが一番わがままになれる(浅沼)」

―表現に様々な手段がある中で、皆さんがわざわざアニメーションという方法をとっているのはなぜですか?

岡田:例えばアート作品や無声作品であればほとんど言葉の弊害がないということにメリットを感じています。私が小さい頃はよくカートゥーンのアニメを見ていたのですが、文化も違うし言葉も使わないのに、ストーリーが頭の中に入ってくるし、知識がないのに絵だけでも内容がわかる。そこがすごく魅力的だなと感じています。

浅沼:私は幼い頃から沢山のアニメを見てきました。そして、それと同時にも のすごく沢山の本を読んでいたんです。だからアニメーションと同時に本にも 魅力を感じていました。例えば文章であれば、「そこに一本の桜がありました」 という文に対し、読み手によって様々な情景が浮かぶでしょう。書き手は人に 与えるイメージをより正しく鮮明なものにするためそこに作者のイメージする 情景を伝えるための言葉を補足していきますよね、桜は満開なのか、八重桜な のか枝垂れ桜なのか、時間帯はいつなのか、まわりには何があるかなど…この 説明を言葉なしでダイレクトに伝えられるのが、まず「絵」という表現であり、 私はそこに文章とは違った魅力を感じています。そして、アニメーションの魅 力は絵に動きを生み出すことによってリアリティが生まれ、現実に近い映像に なることだと思っています。

平澤:私はアニメが1番わがままになれる媒体だと思っています。文章や実写映像は観客のイメージが絶対必要になると思います。一方、アニメは自分の思ったままのものを観客と共有できます。恐らく私が実写映像ではなくアニメを選んだのはそれが理由です。実写だと状況、天気などの外部要因に左右されますから。でもアニメなら自分が神様になれるから、これも欲しい、あれも欲しいってできるんです。全て自分の思い通りに表現できるところが魅力です。

「制作側からアニメを見てしまう(平澤)

アニメのどこを楽しんで見ていますか?

平澤:最近は自分のアニメの見方が変わってしまったんですよね。

浅沼:視点が嫌でも作り手側になっちゃいます…。

岡田:「あ、今のカット何枚くらい描いたかな」とか、「このカットさっきもみたな…」とか。

浅沼:純粋な気持ちでアニメを見られなくなっちゃいましたね。

純粋に作品を見られなくなった一方で、作り手サイドになってからすごいと思った作品はありますか?

平澤:アニメを作るようになって改めてすごいと思ったのは、『ドラえもん』です。

岡田:映画のクオリティは圧巻ですよね。画面上をドラえもんがぐるぐる動くんです。

平澤:あと、『クレヨンしんちゃん』もすごいです。当時は純粋に楽しんでいたけど、今見ると作画もストーリーも毎回チャレンジしていることに気づきました。小さい子供が見るものほど構成がちゃんとされているんだなと思いました。作ることの大変さを経験すると改めてすごいと感じますね。

作り手になると見るポイントが本当に変わってしまいますよね。

浅沼:そうですね、でも純粋な見方って監督は絶対必要だと思います。制作としての目線と観客としての目線を切り替えられる人じゃないとダメなんじゃないかと思います。

岡田:最近は、『ユーリ!on ICE』がすごく面白かったです。久しぶりに、純粋な気持ちでストーリーを楽しんでしまった作品でした。他のアニメはストーリーよりも制作サイドを見てしまうものが多かったんですが、制作のことを忘れてしまうほどストーリーにのめりこみましたね。

平澤:ストーリー全体がデザインされているのがビシビシ伝わってくるんです。

岡田:作品を作るために集めて詰め込んだ資料の多さにスキがないんです。劇中で流れる音楽も、キャラクター一人ひとりの演目のために作っているんです。作画も一般的なアニメのカット数の2倍はあるらしく、制作のことを考えるとゾッとしました(笑)

「今持ってるいる技術で勝負していきたい(岡田)」

みなさんはこのままアニメーターになるおつもりなんでしょうか?

岡田:実は、私はアニメーター志望ではないんです。最初はそうだったんですが、今はアニメを制作するために絵を描くのではなく、視野を広くしてアニメに関わる方法を探しています。制作進行や企画、あとは演出といった分野です。

浅沼:私もアニメーターは違うなと思っているので候補から完全に外しています。つりがね荘を通して、学生生活を送りながらでもアニメは作れるんだと気づきました。社会に出て仕事をしながらでもアニメは作れる時代になりましたから、趣味ではできないことを仕事にしようと思っています。そういった趣味ではできない仕事の候補に、今まで好きで続けてきたアニメ業界でのプロデューサー業などがあります。でも他にも好きなことはたくさんあるので、アニメ業界に絞らず、漠然と考えています。

平澤:私は、就職活動をアニメーターに絞っています。私は将来のことを考える、というよりは今やっていることの先に手を伸ばしてみたいんです。アニメ監督になってこんなものを作りたいという構想はあるんですが、入口はアニメーターから入ろうと思っています。今は修行中です(笑) 

皆さんやはり今制作しているアニメ、やりたいと思っていることの延長線上に将来があるんですね。

岡田:はい。むしろ私たちは高校から大学に行く時にかなり大きな決断した、と言った方がいいかもしれません。一般大学に行く、という選択肢ももちろんありました。ですが美大に決めた時点である程度将来の道は絞っていましたね。学んだものをあえて捨てる必要はないかな、と思います。だったら持っているものを使って勝負していった方が自分に合った場所を目指せると思っています。

現在のアニメ業界の置かれてい現状についてどう思いますか?

岡田:頻繁に話題になっていますし、あまりよくはないのかな…と思います。 ある程度お金をもらって、仕事をすることに集中できる環境にはいきたいなと。 でもなかなか現状では難しいのかとは感じています。

―お金の話でいうと、先日ガイナックスさんやスタジオディーンさんとお話しした中で、製作委員会方式に問題がある気がしているのですがどうでしょう?

浅沼:現状アニメーターの収入が少ないといわれるのは、製作委員会方式にな にかしら問題があるためではないか、という意見を私もよく目にします。また アニメ業界は、収入が少なく、労働時間は長い、いわゆるブラックと呼ばれて いるのもよく耳にします。

岡田:制作進行というアニメ制作のスケジュールを立てたり、原画担当の人に役割を振ったりする方にお話を聞く機会があったのですが、お話を聞いているとやはり今の状況では厳しいそうです。新しく入ってきてもすぐに辞めていく人が多いようで…。そういった状況をどう改善すればいいのか、となるとまず上の方から変えていく必要があると思います。

浅沼:アニメはビジネスだと思って作っていかないと今後のアニメ業界は厳しいと思います。ビジネスだと割り切らないと、私たちのようなアマチュア団体が増えてくるかもしれない。アニメは今どんどん気軽に作れるものになりつつありますよね。そうなると今後、アニメ制作会社が作る作品に期待されるクオリティがもっと高まると思うんです。一般の人が高いクオリティのものを作ったら、アニメ制作会社はもっといいものを作るよね、という風潮になっていくと思います。そうなった場合、アニメ業界はアマチュアとプロのビジネスという線引きをしないとこの先はやっていけないと思います。

平澤:ヒーローが欲しいですね(笑)今は動画1つにつき数百円の報酬でもやりたい、と思う人しかアニメ業界に入らないと思います。そういう人たちはそういう観念で仕事をしてしまうので、私たちが作ったものに対しての対価はちゃんとあるんだという意思を持って若手のうちから制作をしないと業界は変わらないのかもしれません。

―Media100主催のガイナックスとスタジオディーンとのトークセッションで、「アニメーターは職人気質」というお話が出ていましたね。

浅沼:職人ならぜひ技術を受け継いでいって欲しいと思います。そして、趣味と仕事の時間はわけて考えていきたいとも思います。

岡田:一般企業と違ってアニメ業界は就職活動の時点でそれなりの技術を学生に求めてきます。業界としては就職したら即戦力になる人が欲しいようです。教育する時間を確保できなければ、人は育たないのになと思います。

浅沼:問題は教育の面だけではないと思います。1クールに制作するアニメの数を減らしていくのも一つの手なのかもしれません。

―製作委員会方式の中で得た利益の行方も疑問に感じる部分が多いと思います。

岡田:そうかもしれません。ですが、私たちはクリエイターとして業界に入っていくので、ある意味経営的な知識を持っていないんです。そういう知識を持って戦っていけないのがクリエイターの弱点だと思います。経営的な知識もあるし、技術もあるし、お金もある、そんな人がアニメ業界を変えていけるのかもしれませんね(笑)

―是非つりがね荘さんに若手クリエイターの先駆けとして活躍してもらいたいと思っています。

岡田:そうなっていきたいです!ありがとうございます。

 

つりがね荘さんのアニメ制作への本気の熱意が伝わってきました!そして、同世代のクリエイティビティを束ねネットワークを構築していくというその発想を実現していく様に感服しました。これからのつりがね荘さんの躍進に注目です!