前衛的な建築サークル、明日の建築会の実態に迫る

      

左から順に松本さん()、代表鈴木さん(中央)、山下さん()

電気、ガス、水道、道路、家、ビルなど私たちが日常何気なく利用する全てのモノが、ある種の建築技術によって成り立っています。文化・芸術的な意味でも、建築物は様々な形で評価され、現代の様々な作品につながっています。建築は人間のあらゆる文化・社会活動と切っても切り離せない関係にあるのです。そんな建築という深遠なテーマに前衛的な挑戦をもって挑もうとする一つの学生団体があります。

今回は明日の建築会の松本さん、鈴木さん、山下さんにお話をお聞きしました。

明日の建築会とは

普段はどのような活動をされているんですか?

鈴木:早稲田の建築のサークルとしては結構新しいサークルでして、五年前くらいに今の大学院二年の先輩が立ち上げたんですね。既存の概念にとらわれないある種前衛的な建築をしたいということで、建築以外に得意なことをもつ、生け花やファッション、絵画が得意な人だったりと様々な分野の人を集めて始めました。早稲田の理工展という文化祭で建造物を出展するということが主な活動ですが、一昨年くらいに、この活動を言葉に残して発信していきたいと雑誌も作成し始めました。雑誌に関しては他人の作品の引用を使わずに自分たちの発信の場として自分たちの考えベースで作成していこうと考えています。

前衛的な建築をするために様々な分野のスペシャリストを集めておられるとのことですが、サークルとしてまとめていくのは難しくないのですか?

鈴木:まとまりは悪いですね。

山下:みんなが調和してやろう、仲良くやっていこうという雰囲気にはあまりならないですね。

松本:そういうグループではないと思います。

鈴木:それぞれの考えがぶつかり合った先にカオスなものが生まれるんじゃないかと思っています。他のサークルだと洗練された美しいものを目指して意見をそぎ落としていくような作業をすると思うんですが、僕たちは何ができるかわからないカオスな状況に意味があるのではないかと考えて意見を全て取り入れています。作品にしろ、話し合いにしろまとまらなくてもいいなと考えています。

そうなるとサークルでの議論は活発なのでしょうか?

山下:議論はいつも激しくて今回井の頭学園祭(井の頭公園の100周年を祝って学生達が催した祭)に出品する作品に関しましても個人的にも結構つっこみましたね。

鈴木:最初にAIがどうだとか宗教がどうだとかいう未来の100年につながる所から始まって最終的には建築というフィールドには落とし込んでいきますが、建築はどうなっていくのかは常に議論しながら模索しています。

建築のテーマとしてAIが出たのはどういう観点からなのでしょうか?

鈴木:様々な職業がAIによって成り立ち、AIが世界中で使われている中で建築家という人間の職業はAIにその座を奪われるのか奪われないのかという話から始まりました。AIに奪われない職業とはどんなものなのかや、奪われないために人々が、そして世界がどんな動きをしていくのかということまで議論しましたね。

活動は週に何回ほどされているんですか?

鈴木:割と不定期ですね。行事やイベントのためにミーティングは行いますが。

山下;イベントがある時には二週に一回は全体で顔を合わせて集まる体制にはしています。それ以外は班に別れていてそのメンバーごとでライン会議や直接集まっての会議を行っています。

コンセプトの価値~建築はコンセプトが生む~

作品にはイベント毎にコンセプトが必要になってくると思うのですが、どのような意識でコンセプトを扱い、どのように発信していこうとされていますか?

鈴木:建築というバックボーンがある以上コンセプトは重視してしっかりと作っていかないといけないですし、基本的に意味のないものは作りたくないですね。

山下:ただこういう形が綺麗だからという理由だけでは作れないです。

松本:そのコンセプト作りといったものを洗練するトレーニングとして、井の頭学園祭のようなイベントの機会を大切にしています。

鈴木:前回の理工展では『業』というものがテーマだったんですね。やってはいけないことだけどやってしまうということが一般的な『業』に対する理解だと思うんです。それを建築というテーマに落とし込んだ場合ですが、コンセプトとか機能性とかとは関係ないものなのに、なんとなくかっこいいなと思ってデザインしてしまうことが建築はあるんですね。それで、逆に一回そのかっこいいという『業』の部分だけで作品を作れないかなということで、コンセプトなしに自分達の良いと思うものだけで小屋を作りました。逆説的なものを作りたいという思いで作ってみたんですが、それによってコンセプトや軸の大切さというものに改めて気づいて『業』というものは避けて建築を行いたいと思うようになりました。そのため、今回の井の頭学園祭では一つ一つのモノの形や動きにもコンセプトを持たせて人間の動きなども考慮しながら作品を作りたいなと考えました。設計時点でそういう思いがあるので他の作業を行うときにもそこには非常に注意しました。

建築においては主に設計・製作・発信の三工程があると思うのですがどこに重きを置いていますか?

松本:やはり設計ですね。設計のなかでも形をどうこうということではなくコンセプトを抽出していく作業を重視していますね。

鈴木:そこでそれをさらに形に落とし込んで具体的なプランを作り上げていくんですがその作業が建築の8割くらいを担っているのかなと思っています。製作は意外となんとかなると思っていて、あまり上手くできなくてもそれが味になったりします。

製作の過程でコンセプトを追加したりすることはやはりあるのでしょうか?

鈴木:ありますね。一人でやっていることではなくて、チームでやっていることだということが結局一番大きいと思います。製作する中で微妙だなと思ったことも他の視点から見てくれる仲間がいてここを変えればいいんじゃないかと提案してくれます。仲間がいて様々な提案をし合うということばかりやっているイメージはありますね。

自分を持つ人間が集まる場所、明日の建築会

様々なプロフェッショナルを集めたいという思いが明日の建築会にあるように感じますが、新歓活動はどうされていますか?

鈴木:新歓は基本的にしてないんです()僕は、二年の時に建築を見にスペインに行ったんですが、一緒に行った先輩からバルセロナまで建築を見に来るくらいだから興味あるでしょと明日の建築会に誘われたんです。それで面白い話をされて、早稲田にこんなサークルがあるのかと驚いて入ろうと思った時に、一緒にプロジェクトをやったことはないけど面白そうなやつだなと思った人間に僕自身が声がけして今の代を作り上げたんです。4,5月に新歓をガッツリやるのではなく、お互いを知っていくうえで君面白そうだから入らないっていう形式で誘って人を集めています。

明日の建築会はここでしっかりやっていきたいという強い意志を持った人間を入れることを透徹されているんですね。

鈴木:そういう人間以外明日の建築会に興味を持たないんですよね。どんなサークルでもいいという人は明日の建築会を選ばないですね。

松本:会議の雰囲気とかも本当に独特ですしね。

山下:誰かが喋っているときに誰かが違うワードを言ってるんですね。そしてそれいい根みたいな感じでそれの連続というか連鎖していくんですね。

松本:AIの話もそこから出てきたりしましたね。一か月くらい前の会議ですが、その話から教育の話にも派生していきましたね。

山下:教育学部の女の子も明日の建築会に在籍しているのでそういう話に飛んだんですが、色々な生い立ちの人が在籍しているので色々な話に引っかかるんですよね。

松本:知らないことを知ることができて新たに興味がでた分野とかも多いです。色々な人がいるからインスピレーションが浮きやすいんですね。

皆さんが目指している理想の形はどんなものですか?

松本:一人一人には理想の形があるんですけど、それをサークルとしては規定しているわけではなくて、みんなの良いところを消さずに集めていくことを目指しているのでカオスなものが出来上がります。

山下:理想とか軸を持っていない状態でいろんな人が集まっているところに入るとどうしても流されてしまうと思うんですけど、そういう人は好きになれないサークルですかね。

松本:サークル全体ではなく、僕個人の話としては将来的に働かなくちゃいけないとなったときに、自分が求められている分野にいけば、喜んでもらえるしやりがいも生まれるのでそういう仕事をしたいなと思っています。デザインとか設計ではなくて構造の面で人々をフォローしていく方が需要があると思うしやっていきたいと考えています。それで、自分にしかできないこと、構造をやっていきたいと思った時に明日の建築会に誘われたんですよね。大学に入った時に建築学科には色々な人がいてそれぞれ違う方面ですごくて、自分も強みを見つけなければならないと煽られた面はあります。

明日の建築会流の表現

井の頭学園祭に対してはどのように活動をしていただいたのでしょうか?

鈴木:今回の井の頭学園祭のお話をいただいた時は、最初の二か月程全員で集まってやりたい企画について話し合っていました。

松本:井の頭学園祭のある吉祥寺を直接訪ねてフィールドワークをして、要素が出揃うまで話し合っていましたね。

鈴木:そして、要素がすべて出揃った段階で、模型を作るのであれば模型班が必要で、展示のために展示班が必要だよねという話になって展示の作成に入りましたね。また、イベントは地域振興の場としてだけでなく明日の建築会の発信の場でもあるので、明日の建築会のアーカイブをする班も作りました。そして、その班の中でもさらに部門を分けました。最初の数か月は議論をする以上にそれぞれ自分たちのやりたいことを勝手にやっていった側面もあったかもしれません。自分たちのやりたいことをやって、メンバー内でそれらをぶつけあって少しずつまとめていきました。

今回の井の頭学園祭にはどのようなコンセプトで建築を作成していただけましたか?

鈴木:コンセプトとしては100年前、現在、100年後の未来の吉祥寺ということを意識して作成しました。ただここで僕たち特有なところはまず、100年前、100年後を考える前にそもそも100年というときの流れがどんなものなんだろうということを考えたところです。そのため僕たちの展示は、吉祥寺の100年というだけでなく、そもそも100年という時の流れを感じてもらえるような展示にしました。色々時間の流れを感じてもらえるような仕掛けを多く施しています。もう一つ工夫した点としては布を多く利用していることですね。吉祥寺という街はお洒落な洋服屋さんも多いし、古着屋さんも多い。そこから吉祥寺という街は布で構成されているのではないかと考え、廃棄布を利用して展示を作成しました。

情熱大陸を目指す!~明日の建築会の未来~

吉祥寺の100年を考えていただいたわけですが、明日の建築会の10年後の目標はありますか?

鈴木:全員が情熱大陸に出ることを目標としています()明日の建築会の目標はいくつかあって100年後には百科事典に載りたいなんてことも言っています。部員のそれぞれのwikiが出来ていてほしいと思っています。そういうことを本気で思っている団体だと思います。お互いがそういう存在であるということを認めているし、信じている、そういう団体だと思いますね。

その目標のために今現在どのようなことに取り組まれていますか?

松本:今回の井の頭学園祭のイベントという外部のイベントに参加することに決めたのも目標のための取り組みの一つです。これまではやはり、理工展での展示が中心でしたので。これからはもっと外部のイベントに参加していきたいですね。

鈴木:それと、建築サークル全体でみても、僕たちはメインストリームから外れたアングラな団体だったのですが今年は新入生が僕たちのことを知ってくれているのがあって大きく体制を変えていく一年になるとは思います。コンクールで賞を取りに行くことも考えたんですが、コンクールだと実際に実寸大で作品を作れないということもあってそこに満足できない学生が多く在席している明日の建築会ではあまりやらないかもですね。

松本:模型を作るだけの授業では学べないこと、現場でしか学べないことを学べる機会を作ってくれるのが明日の建築会というサークルの魅力だと思っていまして、そういう実践を重視しています。構造の話だと授業ではモデルの計算しかしないんです。実際の木には厚みもあるし気泡もあります。そういった材質とかに対する感覚を学ぶのは大事で、それを行わせてくれる場だと思います。

山下:自分の手で作ってみることは本当に大切です。木にも様々な性質があって、木組み一つとっても。こういう重ね方をして釘を打ってはいけないだとかあるんですよ。そういう積み重ねの究極形として法隆寺みたいなものがあったりして、初歩的なところを学ぶのが大事だと思います。

鈴木:僕たちは、失敗がしたいんですよね。初めから完璧なことをしたいのではなくて探り探りでこれがダメなんだなっていう気付きを得たいんです。それが本当に需要だと思っていて失敗をさせてほしいといつも言っています。

このまま建築の道に進まれるおつもりですか?

松本:私は設計とは違うと思うのですが、建築の構造的な方面で活躍していきたいとは思っています。建築をするうえでも構造上強い建築を作りたいですし、柱とかは少ないほうがやはりいいじゃないですか?柱が多いと邪魔ですし、少ないほうが格好いいです。建築の美と機能は地球の重力の摂理の上に成り立っているのでそこを研ぎ澄ましていけば設計に関わっていかなくても美しいものが作れるのではないかと思っています。そうして自分にしかできないことを行って社会に知の部分で貢献していきたいなと考えています。

明日の建築会として活動した経験を通して、ビジネスとしての建築について何か思ったことはありますか?

鈴木:ビジネスはクライアント、お客さんがいてリクエストをもっているわけなので、自分達の好きなものを作ることができない訳です。だから、逆にビジネスに対してというよりは、親に扶養してもらえる学生として、明日の建築会に在籍している期間がいいなと思います。お金に囚われずに自由に製作できる期間は今だけなんです。ただ、学生であってもお金というものは金銭的な価値ではなく評価軸としての価値の面で大事だなと思います。このサークルがどれくらいに評価されているのか、ブランディングとしての金銭価値は大事だと思います。安売りをしてはいけないと思うんです。仕事や依頼があるのであれば、お金をもらわないと明日の建築会というブランドを損ねてしまいます。

松本:ブランドとしてのイメージ戦略は本当に大事だと思っていて、今回の100祭の資金にもどの分野に投資するべきかということに関しては相当に悩みました。展示作成自体にもお金はすごくかかるのですが、お祭り当日の物販にもお金を多めにかけたりなど、明日の建築会の発信ということを考えたときに積極的に攻めていくような資金配分を考えました。

明日の建築会の魅力

最後にみなさんが明日の建築会で一番魅力に感じていることを教えてください。

山下:僕はぶつかりあえることが魅力だと思っています。怖さはあるんですが一番深いところで相手を理解するためにはぶつかるしかないと思っています。出会ったばかりの表面的な付き合いを越えたところにある本音を言える関係というものが大切だと思っていてそのためにぶつかっていけることが楽しいと思っています。

松本:自分で考えて、考えて考えてこれは面白いんじゃないかと提案していく瞬間がすごく楽しくて、それができることが明日の建築会の魅力です。自分が提案したことをいいねって言われる瞬間は勝ったと思える瞬間でそこを楽しんでいます。なかなか簡単に認めてくれるメンバーではないので、クオリティが高いものを出そうとしなきゃいけなくてそこがいい刺激になっています。なんとか自分の意見を通そうとチャレンジしようと思える環境がすごく魅力的です。

鈴木:代表をやっている中で、各部署がどういう風に考えていてどう動こうとしているのかを見られることが楽しいですし、自分で何かを作り出せるっていうのも楽しいです。ただ何よりも明日の建築会のすごいメンバーと話せることが魅力だと考えています。明日の建築会のメンバーであれば突拍子のないことでも言えますし、僕が適当にパッと言ったことでも高度な知識をもって真面目に返してくれるのがいいと思います。

――ありがとうございました!今後のご活躍も楽しみにしております!